1年前に通した見積書
昨夜、オフィスの引き出しの二段目から、1年前に決裁書として上げた見積書を一部取り出しました。紙の隅が少し折れていて、左上にはその日急いで書き込んだ「承認/2025-08」というサインが残っていました。数字の横には、その時ある役員が蛍光ペンで引いた下線があります。「これで全部ですか?」と聞かれたのを覚えています。その時私は「はい」と答えました。今あらためて見ると、その答えが正確にどこでズレていたのかが見えてきます。
前回扱った4行スコアカードが決裁を通すためのツールだったとすれば、今回は通した後、1年が経った時点の話です。決裁はスタートに過ぎず、その後に続く12ヶ月が、実際の見積書の本当の姿を決めます。

実績 vs 予測 — 開発費は当たり、その後が外れた
開発費自体は、概ね予測の範囲内に収まりました。誤差は10%前後。意外にもここでは大きくズレません。問題はその後でした。運用・再学習・統合・モニタリングにかかった費用が、初期見積の25〜40%を静かに削り取っていきました。国内レポートでも、開発費の20〜40%が毎年運用費として再発生することを一般的な水準として見ています。Flexeraの調査では、直近12ヶ月間でAIコストが予算を超過した企業が79%でした。
さらに痛いのは、予測がどれだけ頻繁に外れたかです。回答企業の80〜85%が、AIインフラ予算を25%以上外していました。リアルタイムで自社がいくら使っているかを把握している企業は、4社に1社だけでした。残りは四半期が過ぎてから請求書を見て驚くわけです。
ガートナーが今年4月に発表した調査では、AI活用事例のうちROIの期待を完全に満たした割合が28%、完全に失敗した割合が20%でした。残りの半分はグレーゾーンにあります。見積書を改めて広げてみると、私たちもしばらくの間そのグレーゾーンで彷徨っていました。
1年を振り返って残った3つの教訓
具体的な数字と同じくらい残るのは、結局いくつかの言葉です。もう一度始めるとしたら、何を違うようにするか。3つ思い浮かびます。
第一に、「小さく始める」ではなく「小さく運用してみる」であるべきでした。 PoCが成功したという事実と、それが毎日回っているという事実は違います。統合レイヤー、ログモニタリング、再学習パイプライン、社内ヘルプデスク — この4つが、初期価格の25〜40%を静かに上乗せします。第2回で扱ったPoC予算感は「回るか」を見るツールであって、「毎日回しながらやっていけるか」を見るツールではありません。もう一度やるなら、PoC予算とは別に、3ヶ月分の運用シミュレーション予算を最初から切り分けて確保します。
第二に、決裁書の数字は3年総コストで描き直すべきでした。 1年だけで区切ると歪みが激しくなります。1年目は概して費用が過大に、効果は過小に計上される区間です。初期統合費用はその年に集中し、学習曲線のせいで効果は後ろに押しやられます。3年の時間軸で再計算すると、見積書の表情がガラリと変わります。成果実現まで1〜3年かかるプロジェクトが大半だという国内の観測とも、ぴったり重なります。第4回で扱った運用コストを3回足したうえで開発費の横に並べて決裁ミーティングに入ると、役員の質問そのものが変わります。
第三に、「モデル選定」よりも「責任の所在」の方がはるかに高くつきました。 これが最も意外な発見でした。最初はどのモデルを使うか、自社構築かAPIかで数週間を費やしました。ところが1年経って振り返ってみると、予算が漏れる箇所は常にモデルではなく、その前後の統合区間でした。グローバル調査でも、AIプロジェクトの68%がモデルではなく統合で止まると報告されています。統合で止まる理由は、たいてい技術ではなくオーナーシップです。ビジネススポンサーと技術スポンサーの2つの名前が明記されていないプロジェクトは、予算が漏れていることを誰も自分の問題として捉えません。
全6回シリーズを貫く一つの言葉
このシリーズを6回にわたって書きながら扱ってきたのは、それぞれ予算感、PoC、自社LLM vs API、運用コスト、ROIスコアカード、そして今日の振り返りでした。6つのテーマがあるように見えますが、書き終えて残った言葉は一つでした。AI導入は技術決定ではなく予算決定であり、予算決定は結局、責任の所在の問題でした。
正直に言うと、この結論を最初から持っていたわけではありません。第1回を書いていた頃は「予算感をうまく掴む方法」に関するシリーズだと考えていました。回を重ねるうちに、視点が少しずつ横にずれていきました。数字をうまく掴むことよりも、その数字に責任を持つ人の名前を決裁書に一緒に書き入れることの方がはるかに決定的だということ — これは前回のスコアカードを実務に当てはめてみたいくつかのチームの反応から、繰り返し確認できたことです。
1年後、引き出しからこのシリーズを再び取り出したときに後悔のない判断を下すには、今、決裁書の数字の横に2つの名前を一緒に書き入れておくことから始めればよいでしょう。ビジネススポンサーと技術スポンサー。その名前が空欄なら、見積書にどれほど精緻な数字が並んでいても、1年後に再び取り出す理由は消えてしまいます。
振り返りワークショップや3年総コストの再算定を一緒にやってみる余地があれば、私たちと30分だけお話ししてみるのも一つの方法です。決裁書を描き直すのに、そう長くはかかりません。