「患者よりパソコンを長く見ている」
先月、ソウルのある町の耳鼻咽喉科の院長先生とランチをご一緒しました。診察室の机の上にはモニターが2台、その横に紙のカルテがもう一束積まれていました。「患者よりパソコンを長く見ているんですよ」。院長先生は笑いながらおっしゃいましたが、冗談のように聞こえても、本音がにじんでいました。
前回の税務・会計自動化の流れでは、請求書処理から決算まで段階的に自動化できるポイントを見てきました。クリニックも本質は似ています。繰り返される記録作業、人の手を離れてもいい部分が思ったより多くあります。
クリニックで自動化が最初に手をつけるべき3つの領域
予約、問診、カルテ。この3つの領域がクリニックで自動化の効果が最も早く出る場所です。EMR(電子カルテ、紙のカルテをPC画面に移したもの)の上にAIが乗る流れが、2026年現在最もはっきりとした変化です。
EMR市場は今どう動いているのか
韓国国内のクリニックEMRシェア1位である「ウィサラン(現GCメディアイ)」が2026年3月に「ウィサランAI」を公開しました。商用化は7月予定です。全国約1万6千余りの病院・クリニックに既に導入されているEMRの上にAI機能が乗る構造なので、クリニック側からすれば既存システムを変えずに自動化の効果を享受する形になります。
ウィサランAIの発表資料によれば、自動臨床ノート作成により診療時間が60%削減され、請求ファイル自動生成と査定減点リスクの事前通知により請求処理時間が80%短縮されるとのことです。80%という数字は抽象的に聞こえるかもしれませんが、1日60件処理していた請求が12件に減るという意味です。スタッフ1人の午後が丸ごと空く計算になります。
ビットコンピュータ、イージスヘルスケア、イージーケアテックといった他のEMR各社も同じ方向に動いています。医療専門誌「メディカルタイムズ」はこの流れを「単純なデータ記録装置から知能型医療プラットフォームへのEMR戦争」と表現しました。言葉は大げさですが、クリニック側で感じる変化はもっとシンプルです。よくやる仕事が自動化される、ただそれだけです。
予約・問診・カルテ、導入順序が大切な理由
クリニックに自動化を一度に入れることはお勧めしません。患者の動線、スタッフの業務フロー、何より院長先生の診療習慣がシステムとぶつかると、かえって遅くなるケースが多いのです。
私の経験上、予約自動化から始めるのが一番安全です。LINEや電話で入ってくる予約問い合わせをチャットボットが一次対応し、空き時間帯だけを抽出して患者に案内します。スタッフ1人の午前中業務のかなりの部分が抜ける場所です。導入コストも最も軽くて済みます。
その次が電子問診です。診察前に患者がモバイルで症状・服用中の薬・既往歴を入力すれば、診察室のモニターにすぐ表示されます。院長先生が「どこが辛いですか」から尋ねなくて済みます。患者満足度調査で意外と高い点数がつく領域でもあります。「待っている間に何かをした」という感覚は、患者にとって思った以上に大切なのです。
最後がカルテ自動化です。診察中の会話をAIが聞いて臨床ノートの下書きを作ってくれる領域ですが、導入の難易度が最も高いです。音声認識の精度、医療用語の処理、個人情報保護。配慮すべきことが多くあります。だからこそウィサランAIのようなEMRに内蔵されたソリューションが、クリニックにとって最も現実的な選択肢になります。別途ソリューションを後付けするより、EMRの中で一度に解決される方が運営負担ははるかに少なくて済みます。
患者満足度と運営効率、その両方を同時に
「自動化したら患者が冷たく感じませんか」。よく聞かれる懸念です。正直、私も最初はそう思っていました。けれども実際に導入したクリニックの話を聞くと、逆のケースの方が多いのです。韓国保健福祉部もAI診療システム導入の効果として、患者安全と診療精度の向上を公式に言及しています。
理由は単純です。スタッフが事務作業から解放される分、患者と目を合わせる時間が増えます。院長先生がカルテ入力に縛られなければ、患者の顔を見ながら話せます。自動化で減った時間がそのまま人対人の応対へとスライドしていく構造なのです。
シリーズの締めくくりに — 6つのバーティカルを辿ってきた道
このシリーズを第1回から追ってこられた方なら、製造→EC→HR→物流→税務→クリニックという6つの業種を一緒に歩いてこられたことになります。業種は違っても、毎回同じ問いが繰り返されました。「この業務は本当に人がやらなければならない仕事なのか」。その問いに「必ずしもそうではない」という答えが出る場所こそが、自動化の定着するところでした。
業種ごとに導入順序が違い、効果の出る場所も違います。製造はラインデータから、ECはCSから、物流は配車から、そしてクリニックは予約から。読者の方の業種に最も近い回に戻っていただければ、次の一歩をどこから踏み出すべきかが見えてくるはずです。
私たち5years+では、韓国・日本の中小企業やクリニック向けに、EMR上のAI自動化から小さなPoCまで段階的に進めてきました。「どこから手をつけたらいいかわからない」という状態であれば、まずは気軽にお話しする場から始めていただいてもかまいません。ご興味のある方は5years+ 無料相談はこちらからお気軽にご連絡ください。
シリーズを最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。