深夜2時のExcelシート
「注文は入っているのに、在庫が合わないんです」。先週、あるECショップの社長から届いたメッセージでした。時刻は深夜2時。その方はオフィスの片隅でノートPCを開き、Excelシートを11枚並べたまま、その日の出荷を合わせていらっしゃいました。
同じ商品が自社モール、スマートストア、そしてCoupangで同時に売れています。どのチャネルの在庫が先に減ったかを人が一つひとつ突き合わせていると、結局どこかで品切れの注文を受けてしまいます。その日もそうだったそうです。
同じ問いをECに投げかけると
前回の記事では、製造業の自動化が常に見積もりと図面のところで止まってしまうという話を取り上げました。「どこから人の手を止めるべきか」。同じ問いをEC SMBの社長に投げかけると、答えはほぼ同じ場所に集まります。注文・在庫・CS、この3つです。
ただし、どこから先に始めるべきかという正解は、会社ごとに異なります。私はこの分岐点を取り違えて半年を無駄にしてしまったケースを、これまで何度か見てきました。
判断基準は3つ — チャネル数、問い合わせ量、人数
判断の基準は、意外なほど単純です。
販売チャネルが1つなら、注文・在庫はまだ人の目で見ても大丈夫です。2つを超えた瞬間から、一人が手作業で合わせられる限界線を一気に越えていきます。出荷漏れが月に1件でも出始めたら、それを合図と捉えてよいと思います。その1件のせいで、返金・評価・リピート率がまとめて揺らいでしまうからです。
問い合わせ量はまた別の問題です。1日の問い合わせが30件を超え始めると、人の返信速度が追いつかなくなります。ここからは社長が本業の代わりにチャット画面に縛られることになります。
そして人数です。スタッフが1〜2名の段階では、自動化の優先順位は「自分が眠れなくなっている領域」になります。5名を超えると、「人によって処理の仕方がばらつく領域」が先頭に上がってきます。
チャネルが2つを超える瞬間
業界でよく引用されるデータに、米国の小規模事業者の約60%が何らかの形でAIや自動化ツールを運用に取り入れているという調査があります。60%と聞くと大きな数字に思えますが、実際に中身を見ると、送り状の出力・ステータス変更通知・在庫同期といった、最も単純な作業ばかりです。
そこが出発点です。大企業が使うフルスタックのOMSを、小さなECショップが丸ごと導入するのはほぼ無理があります。最初はそうあるべきだと思っていたのですが、現場でPoCを回してみると、そうではありませんでした。「注文収集 + 在庫連携 + 送り状出力 + ステータス管理」の4つを1本につなぐだけで、社長の深夜は消えてしまいます。
問い合わせの60%を自動化するということ
CSはまた毛色が違います。あるファッションアクセサリーブランドの場合、注文データと連携したチャットボットを導入した後、単純な問い合わせの約60%が自動処理されたそうです。60%と言うと大したことなく聞こえますが、月5,000件なら3,000件が人の手を離れる、ということになります。
ペット用品ECの事例はもっと劇的です。全問い合わせの49%が「この商品はいつ再入荷しますか」だったそうです。再入荷通知を自動化したところ、半分近くの問い合わせがそのまま消えました。
ただ、ここには落とし穴もあります。すべての問い合わせをチャットボットに任せると逆効果になります。私たちが進めたあるPoCでも、最初は100%自動化を目標に走ったところ、返金・交換のような複雑なケースでクレームが積み上がりました。結局は単純な反復だけを自動化し、曖昧だと感じたら人にルーティングするよう手を入れ直しました。100%万能ではありません。ただ60〜70%が自動で解けるようになれば、人は残りの30%に集中する時間を取り戻せます。
韓国SMBの実際の出発点となる組み合わせ
理論はそうだとして、現実で韓国の小さなECショップがよく使う組み合わせは意外と単純です。Cafe24やMakeshopのようなストアソリューションにChannel Talkを繋ぎ、その後ろにn8nや自前スクリプトで在庫・注文の流れを連携する形です。追加開発なしにストアのデータをそのまま引っ張って使えるのが利点です。
最初から大きなシステムを一気に入れることはしません。ある社長は「注文漏れが1件発生したその週に」、在庫連携だけを先に自動化されました。翌月にCSチャットボットを繋ぎ、3か月目に出荷指示書の自動出力へと進まれました。この順序が正解というわけではありませんが、少なくともその方には合った順序でした。
正直に申し上げると、自動化の出発点を決めることは、ツールを選ぶことよりもはるかに難しい作業です。ツールは1か月あれば習得できますが、「この会社のどこを最初に止めるべきか」は、社長ご自身にも見えにくいものです。
次回 — 同じ問いがHRに移るとき
私たち5years+では、韓国と日本のEC SMBを対象に、こうした段階的な自動化PoCを進めてまいりました。一度にすべての領域を束ねるよりも、まず人の時間が最も早く奪われる1点から手をつける進め方をお勧めしています。社内でご検討中であれば、簡単な現状を共有いただくだけでも、どの領域が先かについての意見程度は一緒に整理いたします。
次回は、同じ「どこから始めるか」という問いを、人材派遣・HR領域に投げかけてみるつもりです。履歴書マッチングからオンボーディングまで、人の流れは注文の流れに似ているようで、少しずつ違う動き方をします。