「結局、どっちを選べばいいんでしょうね」
先日、ある物流会社の管理部長から、こんな相談を受けました。「うちは AI と RPA、結局どっちを選べばいいんでしょうね」。会議室のホワイトボードには、社内の業務リストが赤と青のマーカーで分けられていました。赤が「人がやらなくてもいい仕事」、青が「人にしか判断できない仕事」。ご本人の整理は的確でした。けれども、その先で手が止まっていたのです。
この問いは、実はこの連載の 前回 (第 2 回) で扱った「自社に合う AI とは — 5 つの領域での自己診断ガイド」 の延長線上にあります。領域を見極めたあと、多くの経営者が次に直面するのが「で、ツールは AI エージェントなのか、RPA なのか」という二択の問いです。今回はこの問いを、二択ではない形でほどいていきます。

「RPA」と「AI エージェント」を、まず一文で分ける
難しく語ることもできるのですが、現場で説明するときに私がよく使う比喩があります。RPA は 「ルールに忠実なロボット」、AI エージェントは 「自律的に動く新人社員」 です。
RPA は決められた手順をその通りに、何度でも、文句を言わずに繰り返します。請求書 PDF を開き、決まった項目を会計システムに転記する。同じ動きを毎晩 100 件こなす。指示が明確であるほど強い。逆に言えば、想定外のフォーマットが来た瞬間に止まります。
AI エージェントは違います。問い合わせメールを読んで内容を分類し、過去ログを調べ、必要なら下書きを書く。判断が混じる仕事ができる代わりに、振る舞いが「揺らぐ」。新人社員に近い、というのはそういう意味です。指示書を渡すだけでなく、最初は隣に座って一緒に確認する手間がいる。
正直に言えば、私自身も以前は「AI エージェントが普及すれば RPA は要らなくなるのでは」と考えていた時期がありました。けれども、いくつかの中堅企業の現場に足を運んで、考えが変わりました。判断が要らない仕事は、最後まで判断を入れない方が速くて安いのです。
二つの領域から考える — 「定型」と「判断」
抽象的な話を続けても進まないので、第 2 回で扱った 5 領域のうち、特にこの二択と関係が深い 2 つを取り出します。領域 A (バックオフィス定型業務) と領域 D (知的業務·判断系) です。
領域 A — 定型処理: RPA が向く
請求書の転記、勤怠データの集計、複数システムへの同じ情報の入力。判断がほぼ介在しない仕事です。次の問いに 3 つ以上「はい」が当てはまるなら、まず RPA から検討する価値があります。
- 毎週·毎月、ほぼ同じ手順で繰り返している作業がある
- 入力元と出力先のフォーマットが固定されている
- 担当者が変わっても、手順書通りにやれば結果が同じになる
- 例外処理は全体の 1 割未満
領域 D — 判断系: AI エージェントが向く
顧客からの問い合わせの一次仕分け、提案書のドラフト、議事録からの要点抽出、見積もり依頼書の整理。文脈を読む力が要る仕事です。こちらは次のような特徴があります。
入力が毎回少しずつ違う。フォーマットがバラバラ。「この場合はこう、あの場合はああ」というルールを書き出そうとすると、書ききれない。担当者の経験と勘でさばいている。— こういう業務は RPA では届きません。AI エージェントの出番です。
「右手に RPA、左手に AI Agent」 — 両立の現実解
業界事例として紹介されているもので、印象的なものがあります。ある人材サービス企業では、RPA と AI を組み合わせた業務改革で年間 4,800 時間の削減を見込んでいるそうです。4,800 時間と言われると遠い数字に聞こえますが、月 400 時間。担当者 2 名分です。社員 2 名が、まるまる別の仕事に回せる。そう聞くと、急に身近になります。
注目したいのは、彼らが「AI に置き換えた」のではなく「役割分担した」点です。データ転記·定型帳票は RPA が淡々とこなし、問い合わせ分類や提案書の下書きは AI エージェントが拾う。人間は、その両方の出力を確認し、判断を要する例外だけを引き受ける。
住宅建築の現場でも似た話を聞きました。図面 PDF の読み取りを AI が担当し、データの集約と転記は GAS と RPA で自動化。営業現場では提案書 1 件あたり 3 時間かかっていたものが 1 時間になり、月の新規アプローチ件数が 20 件から 35 件に増えた、と。これは「AI が営業を奪った」のではなく、「営業が AI と RPA を従えるようになった」話です。
中小企業が陥りがちな 「どちらか論」 の罠
冒頭の管理部長の質問に戻ります。「どっちを選べばいいか」という問いは、実は問いの立て方そのものに罠があります。最初は私も、その場で「業務リストを見せてください、向いている方を判定します」と答えそうになりました。でも、ぐっと飲み込みました。
なぜなら、彼の会社の業務リストには、明らかに RPA 向きの作業 (配車表の転記) と、明らかに AI エージェント向きの作業 (荷主からの問い合わせメール対応) が両方あったからです。「どちらか」ではなく「どちらも、適材適所で」が正解でした。
中小企業ほど、ツールを一つに絞りたくなる気持ちはわかります。学習コストも、運用負荷も、管理画面が増えるストレスもあります。それでも私が現場で繰り返し見るのは、ツールを「機能で選ぶ」のではなく「業務で選ぶ」会社の方が、結局のところ早く成果に届くという事実です。RPA と AI エージェントは競合しません。担当領域が違うからです。
まとめと次回予告
RPA か AI エージェントか、ではなく、どの業務にどちらをあてるか。— この一行が今回お伝えしたいことのほぼすべてです。判断が要らない仕事は RPA に。文脈を読む仕事は AI エージェントに。そして、その境目を決めるのは、ツールベンダーではなく、毎日その業務を見ている自社の人間です。
弊社 5years+ では、韓国市場で蓄積した AI·業務自動化の導入経験と、日本のネイティブ協業者とともに、こうした中堅·中小企業の方々の「どこから手をつけるか」をご一緒する案件が増えています。最初から大きく組まず、領域 A の一業務だけを RPA で、領域 D の一業務だけを AI エージェントで、小さく始めるご相談も多くあります。
もし社内で AI エージェントと RPA のどちらから着手するかご検討中でしたら、5years+ までお気軽にご相談ください。現状をお話しいただくだけでも、見える景色が変わるかもしれません。
次回 (第 4 回) は、ここで決めた「どこに、どちらを」を、PoC から本格運用へどう育てていくか — 導入のロードマップを扱います。最初の 3 ヶ月でつまずきやすい点も、現場の話とともにお届けする予定です。